大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌地方裁判所小樽支部 平成7年(ワ)150号 判決 1998年3月24日

原告

志田昌禧

右訴訟代理人弁護士

越前屋民雄

被告

学校法人小樽双葉女子学園

右代表者理事

土原世冑

右訴訟代理人弁護士

山根喬

市川隆之

主文

一  原告が、被告との間で、労働契約に基づく教諭の地位にあることを確認する。

二  被告は、原告に対し、平成八年一月五日から本判決確定に至るまで毎月末日限り月額四五万五九三〇円の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文と同旨。

第二事案の概要

本件は、被告の経営する小樽双葉女子学園高等学校(以下「被告高校」という。)に教諭として勤務していた原告が、被告就業規則第一〇条一号の「身体の障害により業務に堪えられないと認めたとき」に該当するものとして、被告から通常解雇処分を受けたことに対し、原告の身体状況は右就業規則に該当せず、仮に該当するとしても解雇権の濫用であり、いずれにしても本件解雇は無効であるとして、労働契約上の地位の確認と将来の給付分を含む賃金の支払を求めている事案である。

一  争いのない事実等(争いのない事実については証拠を掲記しない。)

1  被告は、被告高校を営む学校法人であり、原告は、昭和四五年四月、被告に雇用され、保健体育の教諭の職にあった。

2  原告は、平成五年一〇月四日、授業中に脳出血で倒れ、右半身不随となり、平成六年四月まで入院治療を受けた。原告は、平成五年一〇月四日当時四六歳であった。

3  原告は、平成五年一〇月当時、本俸、各種手当て等を含め、合計四五万五九三〇円の賃金を得ていた。

4  原告は、創価大学経済学部経済学科の通信教育課程により免許取得に必要な単位を修得し、平成六年五月二日、北海道教育委員会より地理歴史及び公民の高等学校教諭一種免許状を授与された(<証拠略>)。

5  原告は、治療及びリハビリテーションのため、次のとおり休職等をした。

(一) 平成五年一〇月五日から平成六年一月四日まで

休暇、有給休暇の使用に基づく休暇

(二) 平成六年一月五日から平成七年一月四日まで

被告の就業規則に基づく休職

(三) 平成七年一月五日から平成八年一月四日まで

私立学校教職員共済組合の規定に基づく休職

6  原告は、平成七年一〇月二三日、被告に対し、病状が順調に回復し、就業できる状態になったとして復職を申し出たが、被告はこれを拒絶した。その後、原告は、被告高校の学校長らとの間で、原告の復職問題について数回にわたり面談を持ったが、話し合いは平行線に終わった。右の話し合いの中で、被告側は、原告に対し、平成八年一月四日付けで原告を一旦解職することを前提に、同年三月までの間、保健体育の時間講師として採用し、その仕事ぶりをみた上で、その後の取扱いを検討するという提案をしたが、原告はこれを拒絶した(<証拠・人証略>)。

7  被告の就業規則第一〇条には、次のとおり規定されている。

「 次の各号の一に該当する場合には、三十日前に予告するか又は平均賃金の三十日分を支給して即時解職する。

一  精神又は身体の障害により業務に堪えられないと認めたとき

(以下、省略)」

8 被告は、平成七年一二月二七日、原告に対し、原告の身体状況が被告就業規則第一〇条一号の「身体の障害により業務に堪えられないと認めたとき」に該当するものとして、平成八年一月四日付けをもって原告を解職する旨通告した(以下「本件解雇」という。)。

二  争点

1  本件解雇理由の有無

(原告の主張)

後記のとおりの原告の身体状況及び被告高校における体育の授業の概観からすれば、十分に体育の教師として就労が可能であり、被告就業規則第一〇条一号の「身体の障害により業務に堪えられない」との条項には該当しない。また、原告は、公民、地理歴史の教諭資格も有しており、それらの科目の教師として業務に従事することもでき、その点からも「身体の障害により業務に堪えられない」との条項には該当しない。

(一) 原告の身体状況について

(1) 歩行能力

右膝下に若干の装具を着用するだけで、杖なくして単独歩行が可能であり、階段の昇り降り等も他人の介助なく行っており、現時点においても更に少しずつ、円滑な歩行のための能力が改善しつつある。

(2) 筆記能力

原告は、右手の自由が損なわれた後、懸命な努力を払い、利き手を左手に転換し、筆記も左手で行っている。左手で文字を書くことは、紙面に書く場合には、通常人より少し遅い速度であるが、不自由なく行うことができ、板書に至っては何ら障害なく行うことができる。

(3) 言語能力

原告には、もともと教師として採用されたときから構音に障害があったが、病気に倒れた後は、かえって従前より改善され、就労の阻害因子となるものではない。

(二) 被告高校における保健体育の授業の概観及びそれに対する原告の適応性等について

(1) 被告高校においては、女子高校という性格もあり、体育の授業にスキー、水泳、ソフトボールなどの比較的激しい運動を伴うものはない。また、各クラスには、体育クラブ(弓道、剣道、体操、卓球、バスケットボール部等一〇クラブ)のクラブ員、各クラス二名の体育委員がいるほか、六班の班が組織され、それぞれに班長、副班長がおり、体育の授業も、これらのクラブ員、体育委員、班長、副班長の協力のもとに行われている。

(2) 保健及び体育理論の授業は、教室又は視聴覚教室で行われるが、原告の前記身体状況からすれば、教室間の移動が問題となることはなく、授業自体も問題なく行うことができる。また、体育の実技においても、板書又はプリントの配付による説明を行い、自らが模範を示すことができない部分については、前記クラブ員、体育委員等に模範を示させること等によって授業を行うことが可能である。健常者の体育の教師であっても、加齢による基礎的体力、敏捷性等の低下を避けることはできないのであって、中年以降の体育の教師は、自己の体力的限界を熟知して、授業の際に自らがけがをしないように、授業の有様を変化させていくのであるから、体育の教師が生徒の力を借りること、教師が体育実技の模範を示せないことは、体育の教師の適格性を失わせるものではない。

(3) また、生徒が授業中にけがをした場合等有事の場合の緊急の対応についても、居合わせた生徒に指示し、誰かに背負わせたり、担架を取りに行かせ、これに載せて担架を生徒に担わせ、自らは救急車の手配をするなどして処理することが可能であり、何ら不都合は生じない。

(4) 現代社会においては、健常者と障害者の共生という価値観が存在するが、生徒は、障害を有する教師の懸命に生きる姿、職務に努力する姿に感動し、生きる力を学び、その教師の不十分な点をかばい合い、助け合うことで人間愛を学ぶことができる。教師の少々の至らなさ、不十分な点等のマイナス面をはるかに上回る教育的効果が期待できる。

(被告の主張)

後記のとおり原告の身体状況及び被告高校における体育の授業その他の職務内容にかんがみると、原告は、実技を伴う体育の教師としては到底職務に堪えられない状況であり、被告就業規則第一〇条一号の「身体の障害により業務に堪えられない」との条項に該当する。また、学校の教員採用は教科を指定して行われるのが通例で、組織運営を十分考慮して担当者を決めており、免許を取得したからといってすぐ他教科を担当させることはできない場合が多い。

(一) 原告の身体状況について

(1) 歩行能力

一本杖を用いての歩行が可能で、単独歩行を辛うじてできる状況であり、実技を伴う体育教師としての業務には、耐えられる状況ではない。

(2) 筆記能力

文字を書くことが精一杯で、教師としての文章作成、板書には著しい時間を要し、ほとんど不可能に近い状態である。

(3) 言語能力

被告に採用された当時から多少どもりの傾向はあったが、平常時は通常の人と同じであったところ、前記の病気の後は、緊張したり、大勢の人の前で話す場合、聞き手が話す内容をほとんど理解できない状況がしばしばあった。

(二) 被告高校における保健体育の授業の概観及びそれに対する原告の適応性等について

(1) 被告高校の体育の授業は、女子には向かない柔道、サッカーは別として、平成八年度からカリキュラムが大幅に改定され、平成九年度以降、選択科目としてダンス授業、水泳の授業を導入することにしており、更にスキー授業も検討されている。体育の実技指導は、時には体育委員等の力を借りることもあるが、あくまでも責任を伴う補助教員の援助とは全く別のものであり、授業の中で生徒に指導者の役割を持たせることは絶対にできない。少なくとも、免許状を有する体育教師が生徒より技能が劣るとすれば、まさに教師失格であり、教師が模範を示せないことは、授業を担当する上での決定的な障害と言わざるを得ない。

(2) 前記の原告の身体状況からすれば、生徒がけがをした場合等の緊急の対応が原告にはできないと考えられ、学校管理下での体育授業中の事故に対する責任問題を考慮すると、原告に体育の授業を担当させることは適切でない。また、教師の職務には、教科指導の他に担任業務があり、さらに校務分掌の職務も担当しなければならず、これらを考慮すると、原告の職務遂行は一層困難であると判断される。また、被告高校の休み時間は一〇分間であり、原告の歩行能力からすれば、右休み時間に次の授業の準備やすみやかな移動が可能とは考えられない。

2  解雇権の濫用の有無

(原告の主張)

本件解雇は、以下の点にかんがみれば、解雇権の濫用であって、無効である。

(一) 原告が病気で倒れた原因

原告は、昭和六二年ころからクラス担任を務めるほか、体育科主任、クラブ顧問を務め、更に生徒に対する生活指導係長として、生徒の生活指導に当たっていた。クラブ顧問は、日曜祭日等に大会等が開催され、その引率、審判等の業務のため、ほとんど休日を取ることができなかった。また、被告高校では、平成五年当時、生徒の学校生活及び風紀上極めて多くの問題が発生し、原告は、多くの生徒の生活指導、生徒の万引き等の事件、事故の処理にあたるなど多忙を極めていた。原告が病気で倒れたのは、これら職務上の過労が直接の原因となったものである。

(二) 保健体育の教員体制

被告は、現在原告に代わって保健体育の授業を行うため、公立学校を定年退職した教員を時間講師として採用している。したがって、被告が原告の復職を認めたとしても、そのために教員の数が過剰となって他の教員を解雇しなければならないという状況にはない。

(三) 原告は、平成三年四月から平成六年三月までの間、大学の通信教育を受け、高等学校における公民と地理歴史の教員資格を取得し、被告に対し、保健体育に代えて公民、地理歴史の授業を担当させて欲しい旨要望した。被告においても、公民、地理歴史の正規の教員が足りず、四、五人の時間講師で約二〇数時間の授業時間を穴埋めしている状況で、原告に公民、あるいは地理歴史の授業を担当させることに何らの支障もない。

(四) 原告の身体状況について、医師も十分に就労可能と思われると診断している。

(被告の主張)

(一) 原告が病気で倒れた原因

被告高校のすべての教師が校務を分掌して生徒の指導に当たっているもので、特定の教師に過度な仕事を命じた事実はない。また、原告は、これまで労働災害補償の適用を申し出たこともなく、原告が病気で倒れた原因が職務上の過労にあるということはない。

(二) 被告高校の教員体制等について

教職員の人事については、被告の自由裁量であり、原告が自ら担当教科を選択することは許されない。学校の教員採用は教科を指定して行われるのが通例で、組織運営を十分考慮して担当者を決めており、免許を取得したからといってすぐ他教科を担当させることはできない場合が多い。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件解雇理由の有無)について

1  各項中に掲記した各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件解雇時における原告の身体状況(<証拠・人証略>)

(1) 原告の障害の程度

脳出血の後遺症による右片麻痺により、右上肢については、全般に筋力の著しい減弱ないし消失が認められ、右手での書字及び食事はできないが、物の固定等補助的な役割を果たすことは可能である。右下肢についても筋力の減弱が認められ、足関節はほぼ九〇度で固定し、膝関節の可動域は健常人の半分程度である。

(2) 歩行能力及び運動能力

歩行に関しては、健常人と比較すると若干速度が遅いものの、短下肢装具を使用することにより単独歩行が可能であり、杖を使うことによりある程度速歩も可能であるが、走ることはできない。階段の昇降に関しては、昇る際には足を揃えることなく一段ずつ交互に足を上げて昇ることが可能であるが、降りる際には右足を降ろした後に左足を揃えて降りるという形となり、健常人より若干速度は遅いものの階段の昇降も可能である。また、左右及び後方への移動も可能であるが、左右への移動は健常人と比較すると、相当程度遅くなる。

(3) 筆記能力

左手に利き手を転換し、健常人と比較すると、若干速度は遅いものの、十分に読みとり可能な字を書くことができる。左手に関しては障害が存在しないことから、訓練により筆記の速度、字形ともに向上が可能である。

(4) 言語能力

他人が話している言語を理解する能力に関しては全く問題がないが、自分の考えを言葉に出して表現することに関しては若干の障害が存在する(以下「構音障害」という。)。特に、大勢の人の前で話す場合や緊張しているときに聞きづらくなり、聞き手の理解が困難となる場合がある。しかし、通常は原告の会話内容を理解することはさほど困難ではない。なお、構音障害は、脳出血で倒れる前から存在しており、脳出血で倒れたことにより症状が悪化したかどうかは本件全証拠によるも不明である。

(二) 被告高校における保健体育の授業の概観及びその他の業務内容について

(1) 被告高校では、体育の授業として、一学年から三学年までの間に、集団行動、卓球、バレーボール、マット運動、バトミントン、走り高跳び、ユニホック、バスケットボール、ダンス、ミニ・サッカー等を行っている。体育実技及び保健の授業は、各クラスとも、多いときでそれぞれ月四回である。(<証拠・人証略>)。

(2) 被告高校においては、校務分掌として、宗教部、総務部、教務部、生活指導部、進路指導部、保健体育部を設置しているほか、学園祭、修学旅行、進学推薦等の各委員会が設置され、それぞれ担当の教員が配置されている。また、各学級にクラス担任の教員がいるほか、学年主任、教科主任の教員が指定され、部活動の顧問も教員が分担して担当している。さらに、被告高校では、平日及び休日における校内の取締り、下校後の校務処理等のため、日直制度があり、各教員が交代で日直を行っている(<証拠略>)。

(3) 被告高校では、一単位の授業における授業時間は四五分であり、各授業の間の休み時間は、昼休みを除き、一〇分間である(<証拠略>)。

2  以上のとおり認定した本件解雇時における原告の身体状況、被告高校における保健体育の授業の概観及びその他の業務内容を前提に、原告の状態が「身体の障害により業務に堪えられないと認めたとき」に該当するといえるか否かについて判断する。

(一) 保健体育の授業について

前記認定の原告の身体状況からすれば、体育実技の多くの場合において、自らが実技の模範を示すことは極めて困難であるといえる。また、体育の授業においては、実技の際に、生徒がけがをするなどの緊急の事態が生じる可能性が他の教科に比して多く認められるが、その際に、自らの手で、けがをした生徒を運ぶなどの対応をとることは困難であると認められる。

しかしながら、体育の教員であっても、加齢により体力が落ち、体育の実技の模範を示すことが困難になることは当然に予想され、かかる場合には、生徒の一人あるいは数人に実際に実技をさせ、その良い点、悪い点を指摘するなど言葉を用いること等によって、模範となるべき実技の方法を説明するといった方法が用いられていることは公知の事実である。そして、原告においても、右のような方法をとる等の工夫をすることによって、生徒に模範となるべき体育実技の方法を説明することは可能であると認められる。右のような方法を取る場合、原告の言語能力が問題となりうるが、前記認定のとおり、通常の場合であれば、原告の会話内容を理解することはさほど困難ではなく、慣れることによってさらに聞き取りは容易になると認められる。また、緊急の際における対処についても、教員が適切な指示を出すことは必要であるが、必要となる全ての対処を教員一人で行うことはもともと無理であり、その点からいえば、原告においても、自らがけがをした生徒を運ぶなどの対処をすることは困難であるものの、生徒に対し適切な指示を行うことによって対処することが可能であり、緊急の際における対処の点が、原告が業務に堪えられないことの決定的要因になるものではないというべきである。

また、前記認定の原告の筆記能力及び言語能力にかんがみれば、原告は、プリントを作成して配る、模造紙にあらかじめ図や文字を書いておきそれを黒板に貼り付ける等事前の準備を十分に行い、あるいは視聴覚教室を最大限に利用する等授業方法を工夫すれば、保健の授業を行うことも可能であると認められる。

以上によれば、原告の身体状況は、保健体育の教科指導に堪えられないとは認められない。

(二) その他の業務及び休み時間の移動について

被告高校においては、教員が種々の校務を分掌しているほか、業務として担任業務、委員会活動、日直等を行う必要があることは認められるものの、原告がこれらの業務を行うことができないと認めるに足りる証拠はなく、これらの業務があることから直ちに原告が業務に堪えられないと認められるものではない。また、仮に原告の身体状況から一部担当することが困難な業務があるとしても、一般に、複数の職員で業務を行う場合には、各人が各業務をまんべんなく担当しなければならないものではなく、得手不得手等の様々な要因から、各人の担当する業務に軽重を持たせ、不得手な業務を少なく(あるいは免除)し、適した業務をより多く分担させることが考えられ、あるいは実際に行われているところであり、本件においても、被告の方で適切な業務配分をすることにより、原告も右の業務を分担することが可能であると考えられる。しかるに、証拠上被告が右の点を検討した事実は認められないし、適切な業務配分が困難であることを認めるに足りる証拠もない。そうすると、授業以外の業務の存在の点も原告が被告高校の教員として業務に堪えられないことを基礎づける事情としては不十分であるというべきである。

また、原告の歩行能力からすれば、時間内における教室間の移動についても可能であると認められ、少なくとも、原告が休み時間内に教室間の移動を終えることが困難であることを認めるに足りる証拠は存在しない。

(三) また、原告の身体状況が被告高校の「業務に堪えられない」といえるか否かを判断するにあたっては、原告の前記障害によって生じうるマイナス面のみならず、様々な観点からの総合的考慮が必要となるところ、原告が前記のような障害を負っているにもかかわらず、これを克服するために懸命に努力し、業務を遂行している姿を示すことは、生徒の人格形成、発展に好影響を及ぼすなどの教育的効果も期待できるのであるから、右の点を判断するにあたっては、この点も十分に考慮に入れるべきである。そして、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、前記障害を克服し、教諭として復帰するため、本件解雇時までの間も懸命な努力を続けてきたことが認められる。

(四) 以上によれば、原告の本件解雇時における身体状況が被告就業規則第一〇条第一号の「身体の障害により業務に堪えられない」場合に該当すると認めることはできず、他に原告の身体状況が被告高校の業務に堪えられないと認めるに足りる証拠はない。

したがって、原告の身体状況が被告就業規則第一〇条一号の「身体の障害により業務に堪えられない」場合に該当するとしてなされた本件解雇は無効である。

二  原告の本訴請求は、本件口頭弁論終結後、本判決確定までの将来の給付を求める訴えを含むが、被告は、これまで一貫して、本件解雇は有効であり、原告に対する賃金支払義務はない旨主張しており、本判決確定前の任意の履行は期待できないから、右の請求についてもあらかじめ請求をする必要があると認められる。

三  よって、争点2(解雇権の濫用の有無)について判断するまでもなく、原告の本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮森輝雄 裁判官 飯島健太郎 裁判官 堂薗幹一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例